2018年10月        神の前に平等 宗教改革記念日におもう
 
                                  堀切教会牧師 真鍋孝幸
 ノーベル平和賞の受賞者が決まった。コンゴ民主共和国のドニ・ムクウェゲ医師とイラクの少数クルド民族ヤジティー教徒のナディア・ムラドさんである。

 日本では南北首脳会談の大韓民国大統領・文在寅と朝鮮民主主義共和国国務委員長の金正恩かアメリカのトランプ大統領のいずれかか、三者同時受賞ではないのか、という予想をしていたが、受賞したのは地道に活動してきた性暴力被害者支援を行ってきたドニ・ムクウェゲさんと自らもIS「イスラム国」兵にレイプされ、性奴隷とされた屈辱を味わい、その地獄から脱出したヤジティー教徒で、国連でも被害を語っているナディア・ムラドさんである。

 排除と分断をかかげるアメリカ第一主義のトランプ大統領でも、南北首脳会談を実現させた文在寅大統領でも金正恩国務委員長でもなく、性暴力被害者支援をしてきた二人が受賞したことを歓迎したい。

 前オバマ大統領はプラハで核廃絶を訴えた彼の言葉に世界中は賞賛の拍手を送り、彼のノーベル賞受賞を世界は歓迎した。けれども、アメリカは核廃絶とはほど遠いということをオバマ大統領在職中もましてやトランプ大統領からは微塵も感じられないばかりか、歴史は冷戦下に逆戻りし、核時計の針は確実に終末に向かっていると感じているのは杞憂であろうか。今、#ME TOOの声は世界中であがっている。泣き寝入りをしないという被害者の声が今後もあがり、性暴力は許さないという考え方が今回の受賞で少しでも前進することを願ってやまない。

 それと同時にLGBTという様々な性の多様性が見つめられることを願っている。9月26日の朝刊には『新潮45』の休刊決定が報道された。8月号でLGBTの人は「生産性がない」といった衆議院議員杉田水脈(みおの)問題発言をさらに10月号で「そんなにおかしいか」という特集で組まれたことで、新潮社に対する抗議が寄せられ、作家たちからも続々と批判が寄せられた。寄稿拒否の意思が出版社にあったことで、その深刻さに慌てた出版社が沈静化させるための手段として休刊した。

 しかし、それで事は収束したとは言えなさそうだ。ロバート・キャンベルさんは「朝日新聞」で自らが同性愛者であることを告白した。その記事で彼は「休刊したからこの問題が終わりでは短絡的。ヘイトに近い断言や事実がゆがめられたものが、どういう過程を経て出されたものかを検証することが大事なことではないか」と語っていた。

 かつてノーベル平和賞を受賞したダライ・ラマとデズモンド・ツツ大主教は『よろこびの書』変わりゆく世界のなかで幸せに生きるということ という非常にユニークな対談集を出版された。チベット仏教の精神的支柱とマンデラと共に南ア・アパルトヘイト解放のために働いた二人のスピリチュアルリーダーが現代の社会、暴力、抑圧、そして人間の内面性について忌憚なく語っている。その中で、ツツ大主教の娘さんが同性愛者であること、彼自身は数十年前から同性愛者たちの権利を支持し、「同性愛を嫌悪」する天国には行くのはごめんだと言う。しかし結婚したツツ大主教の娘さんは聖職を剥奪されたという。

 彼はアパルトヘイトだけではなく、あらゆる差別に対して、徹底的に当事者感覚を失うことなく語る。そしてその彼とダライ・ラマ14世が宗教の垣根を越えて、互いの宗教を尊重しながら、現代を語っている。

 宗教は保守的だ。現にトランプ大統領を支持する約40%の岩盤支持者たちは、同性愛も進化論も受け入れず、公立学校で祈祷が行われないことを非難する。毎週、日曜日には教会に行き、礼拝で祈り、賛美し、聖書を読み、聖書からのメッセージを行うことを怠らないが、排除と分断を支持する。戦争で敵の敗北を神に祈ることは当たり前と考え、勝利を願い祈りを献げ、戦闘機は敵地に向かって飛び立っていく。9・11の時は、ナショナリズムがアメリカ全体を覆っていたという。

 伝道するということは、排除することではないはずだ。しかし同性愛者に対する偏見は拭えない。

 10月31日にM・ルターが宗教改革を行った。とされるが、そのような見方に対して、ヤン・フス、ウイクリフからカウントすることを提唱する人たちもいる。M・ルターは、神の前にすべての者は「平等」であると語る。

 M・キング牧師は、「いつの日か」と語る。詩編13編には「いつまでですか」という嘆きの言葉がある。

 現実の社会は、彼は「皮膚の色によってではなく、人格の中身によって評価される国に住むようになるであろう」という夢を語り、「わたしには夢がある」とワシントン大行進のスピーチで語った。少しでも前進することを信じ、神の前にはすべての人が平等であるという宗教改革者が見いだした真理に私たちも倣いたい。