【解放の福音】
部落解放の解放祈りの日メッセージ        
ルカによる福音書7章18~23節           

 この箇所には、イエスがどのようなお方なのかが端的に記されています。従来の訳である「重い皮膚病」が昨年12月に出版された聖書協会共同訳では「規定の病」と訳されています。『信徒の友』には今回の訳の特徴が連載されています。

 「規定の病」は、レビ記13~14章による「律法で規定された病」を意味します。これは特定の疾患との同定を避け、誰も不快に感じることがない「政治的正しさ」を実現しています。しかし聖書の世界に過酷な差別があったという歴史を私たちが記憶に留めるために、例えばその本質を表す「汚れ病」というような造語を当てることもできると思います。(須藤伊知郎)

 「目の見えない人は見え、足の不自由な人は歩き、重い皮膚病を患(わずら)っている人、耳の聞こえない人、貧しい人」とはいずれも共同体から疎外され、差別されていた人たちです。律法の本質は「弱者」を法によって保護することでした。しかし時代を経るにしたがって、それは厳しい「共同体」の基準となります。礼拝の中で「水平社宣言」を唱えます。これは被差別部落の人たちは、一個の人格である。そして政府が推進する「融和」政策は被差別の人たちを一段低く見ていると明記しています。

 ノーベル賞作家 ドニ・モリスンがハーバード大学の連続講演『「他者」の起源』が集英社新書として出版されました。

 解説で森本あんりさんは、「トランプ大統領の登場は、自分の国で自分の土地に暮らしながら、いつの間にか「よそ者」のように扱われていると感じる人びとがいかに多いかを明らかにした。グローバル化の見えざる圧力は、大都市で世界を股にかけて活躍する国際派のエリートたちよりも、小さな田舎町で穀物の値段を気にかけつつ生きるほかない人びとに重くのしかかるだろう。そのひとりひとりに、自分の本来帰属すべき場所があり、心に感じながら生きるディープ・ストーリーがあったはずである。」

 「朝日新聞」7月17日号にトランプ大統領が「もともといた国に帰って、完全に壊れ、犯罪にまみれている国を直すのを手伝ったらどうか」というツイッターの発言に対して、民主党の4人の「非白人女性議員」が「人種差別攻撃だ」と彼のツイッターの発言に反発し、国内外で波紋を広げていることが掲載されています。白人が黒人に対して差別するという構図は今も続いているようです。一滴でも黒人の「血」が入っていたら、その人のルーツがアフリカからの出身(奴隷)であれば差別されたのです。そのため、その人たちは自分の出自を誤魔化します。どんな優秀であろうとも被差別部落出身者は差別されたのです。

 かつて自民党の幹事長を務めた政治家野中広務もそのひとりです。「出自が知られたならば就職も結婚もご破算になる。」これが被差別部落出身の人たちにのしかかる見えない圧力であるという点で、昔の話では済まされないのです。そのことを私たちは「部落解放同盟」の方々から伺ってきました。

 石川一雄さんは被差別部落出身故に犯人とされ、今尚「見えない手錠」につながれています。この日、私たちは獄中にいるバプテスマのヨハネが弟子たちを遣わして質問した意味を心に留め、イエスが「律法」の枠からはみ出た人たち、そのようにされた人たちに「解放の福音」を語られた言葉をこの部落解放祈りの日のメッセージとしましょう。