『神の指で』
創世記6章11~24節 ルカによる福音書11章14~26節

 先週の金曜日、ニュージーランドのクライストチャーチで凄惨な事件が起きました。「排外主義」という考え方が世界中で起きています。トランプ大統領は、メキシコ国境に壁を作ると、大統領選で公約しました(その公約を私は支持出来ません)。

 朝日新聞記者の金成隆一さんは自著「『記者、ラストベルトに住む』トランプ王国、冷めぬ熱狂」という本を書いています。自らもそこで3ヶ月間住み、ラストベルト(さびついた工業地帯)の人たちに丹念なインタビューを行い、なぜ、かつては「民主党」支持者の街が「共和党」支持に回り、トランプに投票したのかをレポートしています。失業、貧困、ドラッグが蔓延し、格差が拡がり続ける中で、貧困に喘ぐ人たちは、いわゆるエリート層とよばれているエスタブリッシュメント(支配階級)の政治家にはもう騙されないということがトランプ支持の根幹にあることをインタビューで語っています。「排外主義」は絶対にゆるされてはなりません。しかし、その背後には、そこから抜け出すことが出来ずにもがき喘いでいる人たちがいることも忘れてはなりません。

 「ノアの洪水物語」では、ノアとその家族そしてオスとメス一対の動物は箱船に入り、洪水を免れます。そしてそれ以外の地上に住む人も動物も皆、滅びます。 教会は、この箱船を教会の比喩として語ってきました。

 今回の入院で佐藤 優の『宗教改革の物語』を再読しました。そこには「宗教改革」の先駆者ウィクリフとヤン・フスが語られます。二人とも教会の権威、特に教皇(教会の大分裂)の権威に対して異議を唱え、その結果二人は処刑されます。フスはコンスタンツ公会議で異端とされ火刑に処されます。しかしその教えは受け継がれて行きます。聖書では残りの者、選ばれた者、神の民、と呼ばれる人たちがおり、それとは反対の極には、滅びる者が語られます。創世記9章9節~17節には、「二度と滅ぼさない」という神さまの約束が語られます。これがノアの物語のメッセージです。イエスはいわれました。「神さまは良い者の上にも悪い者の上にも太陽を昇らせ、雨を降らせて下さる。」(マタイ5章45節)「ノアの洪水」物語の真意をこのように読みたいと思います。

 神の指とは、神の力、働きを指す言葉です。イエスはベルゼブルの頭として、悪霊を追い出していると、民衆そして当時の宗教的指導者たちも考えていました。すなわち呪術、魔術の類いによって悪霊を追い出していると考えていました。イエスはそのような力ではなく、神の指で口のきけなくなった人を癒やされました。とルカは語ります。

 神の指でイエスは悪霊を追い出されます。神の国は目前に近づいている。この宣言を受け入れるとき、私たちに聖霊が与えられます。「天の父は求める者に聖霊を与えて下さる」と言う言葉を信じる群れが、教会です。しかし、その教会は決して排他的であってはなりません。多様性を認め合う「信仰共同体」は神の言葉に生きる群れです。

 神の指の業を信じ、その働きに参与する。神の指を知らされた者として、私たちは今、歴史の大きなターニングポイントの只中にいます。一人一人が遣わされた場所で「キリストの香り」を放つものとして、互いの違いを認め合い、排外主義、排他主義という考え方から解放(脱皮)され、様々な価値観を認め合い、終末を生きる者、主の来臨を信じ、その時まで「中間時」を生きるものとして歩みましょう。