【神の国はすぐそこに】
ルカによる福音書21章29 ~33節            
             
 終末のイメージは「滅亡」である。ショック・ドクトリン(「惨事便乗型資本主義」)を書いたカナダの作家でジャーナリストのナオミ・クラインは、厳しく新自由主義的な今の世界を覆っている価値観に対して作品を通してNOと言っている。

 マグニチュード8.3の地震がメキシコを襲った。民主化の途上にあるミャンマーでは、イスラム教徒(ロヒンギャ)は国民として認められることなく、難民となり、隣国バングラディシュに避難している。最年少でノーベル平和賞を受賞したパキスタン出身のマララ・ユスフザイさんは、このほどミャンマーで報告されている少数派イスラム教徒ロヒンギャの人権侵害をめぐり、沈黙し続けているアウンサンスーチー氏に対して、「同じように非難してくれるのを待っている。ロヒンギャの人々も待っている」と書いた。

 自然災害でも戦争でも飢餓に苦しみ、復興のリズムに乗れないのは「弱者」と言われる人々だ。

 21章は「小黙示録」と言われている。マルコを下敷きに書いたマタイとルカはそれぞれその言葉を紡いでいる。ここでのルカのメッセージは一言で言えば「惑わされるな」である。今世界を覆っている闇、暗闇は世界の終わりを感じさせる。世界の終わりを告げる「終末時計」は終わり2分30秒前をさしている。

 異常気象、環境破壊、核の脅威がその事を実感させる。終末は破壊、破滅を意味する。戦争、飢餓、異常気象、環境破壊、自然災害、地震が頻発すればするほど人々は不安に駆られる。

 ルカは「神殿破壊」がローマ軍によって行われる中で、淡々とその事実から目をそらすことなく、イエスが語られた終末を語る。いちじくの木は小アジアの原産で、パレスチナには早くから移植、広く栽培された重要な果樹である。(申命記8・8、民数13・23、マタイ7・16) 申命記には神の賜る良い土地、そこには小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ザクロが実り、オリーブの木と蜜のある土地が神の賜る良い土地とされる。またいちじくの木・ぶどうの木は平和、繁栄を象徴している(ミカ4・4、ゼカ3・10)。

 神に祝福された平和な状態をミカ書は記す。いちじくの木は年二回結実する。早春3月小枝の先に小さな緑色のこぶが生じる。6月には成熟、初なりのいちじくとして賞味される。初なりが賞味される間に成熟し、第二のつぼみが、その年に出た新しい枝に生じ、8月、9月に成熟する。これが秋のいちじくとなる。

 イエスは最後の譬えを話された。いちじくの木、すべての木を見なさい。と言われる。ちなみにマタイとマルコは「いちじくの木から教えを学びなさい」であり、神の国が近づいているというのではなく、「人の子が戸口に近づいていると悟りなさい。」と記す。ルカのメッセージは「惑わされるな」である。確かに終わりを感じさせる出来事が頻発している。しかしそのような中で、「頭を上げなさい」「木を見なさい」と言われている。どんなことがあっても希望を失うな、たとえ天地が滅びても、とイエスは言われる。

 イザヤ書40章6、7、30、31節のみ言葉を思い起こしてほしい。苦難の中にあるイスラエルの民は解放を約束される。第二の出エジプトがはじまる。「神の国」はすぐそこに来ている。その事は、イエスが語られたいちじくの木の譬えでわかる。終末を生きるとはどんな状況でも希望を失わず、生きることに他ならない。