【よく聞きなさい】
                      
                     ヤコブの手紙5章1〜6節

 池上彰さんが書いた『日本がもし100人の村だったら』という本は、『世界がもし100人の村だったら』の姉妹編ともいうべき本です。そこには、あとがきに代えて、池上彰さんと池田香代子さんが政権交代後の希望の「100人の村」という対談で締めくくられています。出版されたのが、2009年11月26日。今から1年前政権が交代したことへの希望が語られていました。そこで、少子化に伴う問題、貧困の問題が統計学をもとにして、このように語られています。
 
 「2050年には子どもが9人減り、お年寄りは38人に増えます。働いている100人のうち、40人は年収300万円以下です。大企業の正社員の時給は2284円、非正規社員は1147円、中小企業の正社員は1562円、非正規社員は947円です。オランダでは働いている人100人のうち52人は非正規社員ですが、給料は正社員の95%です。あなたが働いて税金や社会保険料を納めるのは最低限の暮らしをみんなに保障するため病気や失業など人生のリスクにそなえるためです。でも、この村では満足に暮らせない人が増えています。子ども100人のうち15人は、食べるものや着るものに困りふつうの暮らしができません。けがや病気をしても治療を受けられない子どもがいます。100世帯のうち、26世帯は貯金がありません。2世帯は生活保護を受けています。44世帯は国民健康保険に入っていますが、8世帯は保険料を払えません。小中学生100人のうち、14人は給食費や学用品などが払えません。10年前は、7人でした。」
 
 菅直人首相が日本は「最小不幸社会」を目指す。と所信表明演説で語りましたが、これが日本の現実です。
 ヤコブがここで、厳しい非難を浴びせているのは、「大土地所有者」です。ローマ社会の上層の人々(元老院議員、騎士階級)か、解放奴隷で、商売や銀行業などで財を築き、大土地所有者となった人々なのか確かなことはわかりません。いずれにせよ、教会員なのか、あるいは、教会と繋がりのある人が富を独り占めしているのです。

 ヤコブは、このような金持ちに対して、容赦ない非難をしていました。1章10〜11節などにもその事が語られていました。前後しますが、4節を読めばわかります。
 ヤコブの非難は、ヤコブだけのものではありません。これは旧約聖書の預言者の「災いの言葉に関係しているといわれています。」すなわち、アモス8章1〜7節、エゼキエル7章19節、(他にもゼカリヤ11、2、イザヤ書13-6、14、31-15、)などがあります。また「律法」の書である申命記24章14〜15節では、搾取してはならない。といわれています。
 ヤコブはここで、「預言者の災いの言葉」の手法を用いて、根拠−告知という順序を逆にして、1〜3節で、告知、続く3〜6節で語っています。
 
 ここでは、「大土地所有者」がヤコブの非難の対象であることは明らかです。けれども、私たちには無関係と言い切ることが果たして出来るのでしょうか。
 私は、この箇所を読み終わるに際して、「ラザロの物語」に導かれました。(ルカ福音書16章19〜31節)ここには、金持ちとラザロという貧しい人が登場します。やがて、二人とも死にます。金持ちは、暗闇の陰府でさいなまれているのに対して、ラザロはアブラハムの懐に抱かれて天上にいます。貧しい人を蔑ろにして、自分の幸福のみを追求する人の末路がここに描かれているのです。
預言者は、愛と正義を語り、権力者の不正を厳しく命を賭して糾弾し、神の御心に生きるようにと、悔い改めを迫ります。その言葉に真摯に向き合えば、自己の幸福を追求する生き方は出来ないのです。
 富が一点に集中し、貧しい者と富む者の「格差」が広がるような社会、自己責任で、「弱者」を切り捨て、自分の幸福の追求に戦々恐々とするような社会は、好ましい社会とはいえません。
 
 最後に箴言の30章7節〜9節を読んでお祈りします。
 
 二つのことをあなたに願います。/わたしが死ぬまで、それを拒まないでください。/むなしいもの、偽りの言葉を/わたしから遠ざけてください。/貧しくもせず、金持ちにもせず/わたしのために定められたパンで/わたしを養ってください。/飽き足りれば、裏切り/主など何者か、と言うおそれがあります。/貧しければ、盗みを働き/わたしの神の御名を汚しかねません。/

 これは、金持ちに対しての言葉だ。と言えるのでしようか。「よく聞きなさい」という言葉は、「大土地所有者」や「貿易商」だけに語りかけられた言葉ではないのです。自己の幸福追求のみに終始する人すべてに当てはまる言葉だといえるのです。

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