2020年1月
                          2020年のスタートに際して

                               堀切教会牧師 真鍋孝幸
 2020年がスタートした。昨年様々な自然災害が日本を襲った。日韓関係は「徴用工」をめぐって冷え込み、最悪である。

 政治は「桜を見る会」、「IR誘致事業をめぐる汚職事件」。そして一昨年の「モリトモ・カケ問題」などでの報道は現政権の姿を象徴している。トリクルダウンというかたちで経済成長を計ってきたが、不公平性、格差は拡がり続けている。そのような中で、「れいわ旋風」が今の時代の「生きづらさ」をクローズアップさせた。

 国内外共「排外主義」、「排他主義」が加速化していると思ってるのは、わたしだけではあるまい。

 2019年のよいニュースと悪いニュースの割合で言えば、悪いニュースのほうが多かったと言うのがわたしの実感である。

 明るいニュースと言えば吉野 彰さん(旭化成名誉フェローで名城大学教授)らがリチウム電池の開発でノーベル化学賞受賞したこと。そして、11月にローマ教皇フランシスコが日本に来日し、被爆地である長崎、広島のメッセージ、原発事故被災者の所(東京)に赴き、内外に核兵器の廃絶、原子力開発、環境問題、いのちの尊厳、死刑などについてNoをはっきりと表明したことである。

 けれども、無実を訴え「再審」を求めて闘っている袴田 巌さんとの東京ドームでのミサに出席後、面会が実現しなかったことは残念で仕方がなかった。彼は獄中でキリスト教を信じ、受洗した。死刑囚として、長い拘禁状態に晒された結果、彼は精神に支障をきたしてしまう。

 もしも彼がローマ教皇に面会し、そこで「自分は無罪である」と表明をし、その映像が流れればきっと、石川一雄さんをはじめとする「再審」を求めている人たちの「声」がクローズアップされ、冤罪を訴えている人たちの突破口になったに違いないと思うからだ。

 暗いニュースと言えば、アフガニスタンで何者かの銃弾に倒れ亡くなった中村 哲医師のことである。様々な新聞テレビは彼の死を報道した。世界中が大きなショックを受けた。教会に寄せされたクリスマスカードの中にもその悲しみが記されていた。

 私自身もこの訃報を聞き、その日一日は仕事が手につかなかった。「キリスト新聞」には、最後の言葉となってしまった「ペシャワール会」の会報の言葉が「号外」として発行された。

「『テロとの戦い』と拳を振り上げ、『経済力さえつけば』と札束が舞う世界は、砂漠以上に危険で面妖なものに映ります。こうして温暖化も進み、世界がゴミの山になり、人の心も荒れていくのでしょう」 「とまれ、この仕事が新たな世界に通ずることを祈り、真っ白に砕け散るクナール川の、はつらつたる清流を胸に、来たる年も力を尽くしたいと思います」 「良いクリスマスとお正月をお迎えください。2019年12月 ジャララバード(アフガニスタン)にて」

 この国では「元号」が変わることで新しい時代がはじまったと考える。すなわち明仁天皇から徳仁天皇に代替わりしたことが良きニュースとして大々的に報道され、一連の儀式が「神道」で行われることに対して、何の疑問も呈されることすらない。 「大嘗祭」が国費で行われること自体をおかしいと思う人は少数だ。(20代、30代では殆どの人がそうであろう。)

 憲法に照らしてどうなのか、という議論をすれば変わり者というレッテルを貼られる「空気」が蔓延している。

 「朝日新聞」の元旦の社説は「人類普遍」を手放さずにというサブタイトルが付けられていた。マイノリティの人たちには「生きづらい」社会は、幸福な社会ではない。一部の人が利益を享受し、トリクルダウンが推し進められる社会は、聖書が指し示す社会とはほど遠い。けれども悲(哀)しいかなこれがわたしたちの世界・社会の現実の姿だ。
 イエスが示された祈り、「主の祈り」はこのような社会を志向してはいない。