あなたはどの道を通るのか!

                    堀切教会牧師 真鍋孝幸
 アメリカの大統領がオバマからトランプへとあと一ヶ月余りでバトンが引き継がれる。マスコミは彼の当選に困惑しているようだ。

 「キリスト新聞」(11月26日)に「キリスト教国の選んだ道は?」と題して、今回の選挙結果をアメリカの教会はどのように受けとめたのか、またトランプ候補に対して常に厳しい目で見ていた現教皇フランシスコの言葉が紹介されていた。「貧しい人や排除された人のことを忘れないように」彼の言葉は今の世界状況を見事に言い表している。

 「格差」の問題は世界中にはびこり、うめき、あえいでいる人たちの数すらわからない。日本でもこの問題は大きく影を落としている。6人にひとりの子どもが「貧困」状態にあり、希望を描くことが出来ないでいる。ある人は言う「戦後の日本は食べ物も無く、大変な状態であった。それに比べれば…」、しかし、高度経済成長の中で「1億総中流」と呼ばれていたことを考えれば、このような発言は的外れである。

 憲法25条には「生存権」が明記されているが、6人に一人の内何人の子どもがこの権利を享受しているのだろうか。高齢化社会から高齢社会、そして超高齢社会へと移行している中で、何人の高齢者が25条を享受し、「健康で文化的な生活」を送ることが出来ているのだろう。

 先日「部落解放・人権文化フォーラム2016」に出席した。今年のテーマは「差別煽動NO!今 ここから わたしたちから」であった。記念講演は弁護士の河村建夫氏であった。彼はインターネットによる人権侵害の実情を「復刻版 全国部落調査」出版差し止め訴訟の弁護を引き受けておられる立場から、ネットの恐ろしさと今後の懸念、そして対策・対応について語られた。その後、6組の分科会が行われ、わたしは「被差別当事者から見た東京の差別と人権」のセッションに出席した。

 二人の方がそれぞれの立場で話された。一人の方は、1歳の時にポリオに罹患して、その後歩行困難となり、現在は車椅子での生活をしておられる方で、DPI(障害インターナショナル)日本会議障害者権利擁護情報センター所長の八柳卓史氏、もう一人は在日コリアン三世の梁英聖氏であった。八柳氏は障害を医学モデルから社会モデルへとして捉えることの重要性そして「障害者差別解消法」に当事者の立場から語られた。また梁氏はヘイトスピーチの現状と社会にもたらす影響、そして危うさを語られた。その中で関東大震災で行われた朝鮮人虐殺行為について触れられ、ありえない差別が今、日本で公然と行われている。それがヘイトスピーチ(差別煽動)である。と語られた。これらの差別を解消していくためには現行の法律では障害者差別もヘイトスピーチも解消出来ないと思った。なぜならばこれらの法律には処罰が無いからに他ならない。そのため、高江での反対運動をしている人に対して発せられた警官の「土人」発言、それを擁護する大阪市長、現沖縄担当大臣、そして熊本震災では小坪愼也福岡県行橋市議のヘイトスピーチに対して、何の処罰も与えられていない現状は、世界レベルでは放置できない。

 排他主義、排外主義からは「共生」は生まれない。障がい者・在日の人々、LGBTの人々、あらゆるマイノリティーの人たちを自分たちのテリトリーから追い出そうとする動きは看過できないし、そのような動きに対しては「当事者」の立場で考えるためには連帯は不可欠だ。わたしの問題として考える想像力を一人一人が身につけたいものだ。

 街はクリスマスイルミネーションで華やかだが、イエスは「家畜小屋」で誕生し、祝いに駆けつけたのは極貧の生活を強いられた卑賤の職業とされた羊飼いたち、そして星に導かれてやって来たのは異国の占い師、幼子イエスに出会うと羊飼いは賛美をしながら現場へ、占い師は自分のいちばん大切な宝物(商売道具)である「黄金」「乳香」「没薬」を献げ、「『ヘロデ王の所へ帰るな』」と夢でお告げがあったので、別の道を通って自分たちの国へ帰っていった。」(マタイによる福音書2章12節)

 わたしたちはこの世界で最初のクリスマス物語を忘れてはならない。